はじめての広報 広報PRノウハウ

【小規模事業者向け プレスリリースの書き方③】
~街の個人商店がメディア取材を呼ぶ1つの方法~その3(最終回)

前回、メディア担当者や記者の人たちが関心を持つプレスリリースのポイントについて、メディア側の事情も理解しながら紹介しました。
今回は、いよいよ「何を書けばいいのか?」の核心に迫ります。

④一般的なプレスリリース向けキーワードと小規模事業者向けキーワード
プレスリリースには、共通して頻発するキーワードが存在します。企業がメディアに対して特に強調したいポイントをアピールするために、キーワードを活用しています。

一般的なプレスリリース向けのキーワードとして効果的と言われる例を列挙してみます。
・「最上級表現」⇒日本初、業界初、最多、最小
・「希少性表現」⇒〇〇で唯一、▲▲では珍しい
・「新規性表現」⇒画期的
・「感情表現」⇒“感動的な・ほっこりする”
・「時流表現」⇒“今話題の”、
・「季節性表現」⇒“冬にもってこいの!”
・「将来性に関する表現」⇒“数年後に主流になりそう・・”

上記のようなキーワードの例は、大企業が新聞の1面や経済面、およびテレビのストレートニュースを想定する場合は合致しており、支障はほとんどありません。
しかし、知名度の低い会社が上記のキーワードに囚われて情報を埋めても、メディアに刺さる可能性は低くなってしまいます。
例えば、商店街の総菜店の商品紹介に、「日本初」「唯一」「将来・・・」と書かれても、メディア側の立場として裏が取れない情報になるのです。(つまり、事実確認が困難な情報です。)
「今話題の!」には当てはまるかもしれませんが、それだけでは、同じようなネタは他企業の商品・サービスにもありそうで、「なぜ、その商店街の総菜店でなければならないのか」についての必然性が求められます。

ここで重要なポイントは、企画や特集モノに取り上げてもらうための「独自性」なのです。
それに繋がるのが、「顔や情景が見える」=「手触り感のある情報」となります。
具体的には、
・現在の製品・お店に至った経緯
・試行錯誤の過程
・周囲の人達の関わりや声
・商品やお店を通して目指していること=想い
などです。

実際に私が経験した、ある酒屋さんが企画している試飲イベントに関するプレスリリースの例をご紹介します。
・様々な味の個性的な日本酒を十数種類揃え、イベント参加者に「好きな日本酒」を見つけてもらう、という試飲イベントです。
・店主自ら酒蔵を周って選んだものを、店主による親身な解説、さらにお土産付で!という目玉企画もあります。

このプレスリリースには、「店主独自の品ぞろえ」「解説」「お土産」「好きなお酒が見つかる」とありました。
しかし、メディアから見ると、これらの取り組みは酒屋さんの試飲イベントには普通のことのようにも見えてしまいます。
ただ、この店主に聞き取りを進めると、、、
「私は酒選びがへそ曲がりで、メジャーなものにはあまり興味なくて、“この酒蔵は今後伸びる”とか、そういうモノを見つけたくて、酒蔵を訪ねて、話をしながら選ぶんです。」とおっしゃっていました。
この情報があったら、「どんなお酒があるんだろう?」と“わざわざ“行きたくなりますし、メディアとしても「へそ曲がり店主が選んだ絶品日本酒」「町の酒屋と酒蔵の絆」などの企画を立てやすくなります。
つまり、「へそ曲がり」という情報が、この酒屋さんの独自性の核となり、顔の見える情報に近づくのです。

⑤書くべき情報をどう引き出すか?
「顔の見える」情報を、コンサルタントなどに引き出してもらう、自社製品をゼロから振り返って年表を作る、などの方法もありますが、多大な手間がかかるのと、間違った方向に行くと刺さる情報にたどり着かないという問題もあります。
そのような失敗リスクやムダを避け、もっと簡単にうまく、しかも、自身でできる情報の引き出し方があります。それは「具体的な比較」です。

まず、自社の製品について、業界全般や他社と比較します。さらに顔の見える情報にするために、自分への問いかけを具体的に進めます。
先ほどの酒屋さんの例でいうと、
Q:他の酒屋と品ぞろえで何が違うのか?
この質問の答えが「私、へそ曲がりで・・・」でした。
この「へそ曲がり」を軸に次に進めていきます。
Q:日本酒といえば、久保田や越乃寒梅、最近ではフルーティーなものも人気があるけど、へそ曲がりな酒選びとはどういうものか?
この質問の答えには、「メジャーなものより、これから伸びる!みたいなものが好きで、先日福島に行ったら、〇〇という酒蔵に出会い、ここの杜氏が▲▲で、味も●●●だった。」

さらに問いかけには、久保田と何が違うのか?など、抽象的ではなく具体的に進めます。
そうすることで、「久保田は〇〇だけど、今回のお酒は△△」といった具合に、「店主独自の」という捉えにくい情景の見えない情報になってしまう失敗を避けられるのです。

実は、メディア側の編集会議においても、
「これまでは(一般的には)〇〇だけど、この店は△△なんです。」
ということが会議メンバーの腑に落ちると企画が通る可能性が高くなるのです。

小規模事業者にとって、いきなりプレスリリースという手段はハードルが高いと考えてしまうかもしれません。
その場合は、まず、企業ホームページのブログなどで、定期的に「顔の見える」情報を書いて蓄積していくのもトレーニングにもなりますし、PRにもつながります。思わぬ機会で、メディアや記者の目に触れることもあるものです。手軽に始められる手段としても大変効果的です。

最後になりましたが、これまでに述べてきた手法で自社の商品の魅力を突き詰めていくことは、プレスリリースに限らず、SNS発信、チラシ、POPなどのマーケティング全般に活用できますので是非、試してみてください。

東京都中小企業診断士協会城北支部 広報部
岡本 陽介

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