城北国際情報局

メキシコにおける日本食ブーム ― 異文化が織りなす新たな食の潮流

城北支部 国際部 落合 洋介


近年、メキシコで「日本食」が静かなブームを巻き起こしている。寿司、ラーメン、たこ焼きといった代表的なメニューはもちろん、日本の居酒屋文化や精進料理、抹茶スイーツなども、メキシコの都市部を中心に注目を集めている。私が駐在していた2012年当時と比較しても日本食店の増加傾向は明らかである。当時は進出していなかった牛丼チェーン「すき家」も現在はメキシコ全土で22店舗を構えている。そしてこの6月、私が診断士受験生時代、予備校帰りによく利用していた池袋のラーメン店「屯ちん」が、10月には焼き肉チェーンの「牛角」がメキシコへの進出を果たした。

2025年10月23日Gyukaku, Japanese BBQ restaurantがメキシコシティにグランドオープン

このブームの背景には、いくつかの要因がある。まず第一に挙げられるのは、メキシコの中間層の拡大と所得水準の向上[ms1.1][@オ1.2]である。経済成長とともに、健康志向や食の多様化に対する関心が高まり、比較的低カロリーで栄養バランスに優れた日本食への需要が生まれている。特に若年層を中心に「ヘルシーでおしゃれ」なライフスタイルの一部として、日本食を取り入れる人が増えている。

また、SNSの影響も見逃せない。インスタグラムやTikTokでは、彩り豊かな寿司ロールやラーメンの湯気立つ映像が拡散され、視覚的な魅力が日本食の人気に拍車をかけている。こうした発信の多くは、地元のインフルエンサーやメキシコ在住の日本人によって行われており、双方向の文化交流が進んでいる点も興味深い。漫画やアニメといった、日本のサブカルチャーとの関連性も無視できないであろう。

メキシコシティのアニメ&漫画イベント TNT EXPOのポスター

現地の日本食レストランも進化している。かつては高級ホテルの中にある本格和食が中心だったが、現在では、地元の食材を活かしながらアレンジを加えた「フュージョン系」の店が急増中である。たとえば、アボカドを大胆に使った寿司ロールや、唐辛子入りのラーメンなどは、メキシコ人の味覚に寄り添いながらも[ms2.1][@オ2.2]、日本的な要素を残している。

メキシコの有名寿司チェーン店「sushi itto」のメニュー表

さらに、日本政府や民間企業によるプロモーション活動も奏功している。「クールジャパン戦略」の一環として、JETROや在メキシコ日本大使館が開催する食文化イベントや、日本酒の試飲会、料理教室などが現地で人気を博している。こうした取り組みは、日本への理解を深めるだけでなく、経済的な波及効果も期待されている。

メキシコシティの日墨会館にて行われた「日本食 × 日本酒イベント」(2025年3月10日)

もっとも、日本食ブームは一過性の流行に終わるものではなく、文化的融合のプロセスの一部とも言える。今後、メキシコ人シェフによる“新しい日本食”の登場や、地元産食材との新たな組み合わせが、両国の食文化をさらに豊かにしていくだろう。

 

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